「ながら勉強」の隠れたコスト——メディアマルチタスク研究からの警告
スマホの通知を横目に単語アプリ。動画を流しながらリーディング。SNSを行き来しつつリスニング——現代の英語学習は、いつも「ながら」の誘惑の中にあります。
「自分はマルチタスクが得意だから大丈夫」と思っている方へ。その自信、研究のデータと突き合わせてみませんか。
「マルチタスクが得意な人」ほど、切り替えが苦手だった
スタンフォード大学のOphirらは、日常的に複数のメディアを同時使用する度合いが高い人(ヘビーメディアマルチタスカー)と低い人を比べる実験を行いました。結果は直感に反するものでした。ヘビーマルチタスカーのほうが、無関係な情報を遮断する能力や、タスクの切り替え課題の成績が悪かったと報告されています(Ophir, Nass & Wagner, 2009)。
つまり、「ながら」に慣れている人ほど雑音に強いわけではなく、むしろ注意が散りやすい傾向が観察されたのです。
なお、この研究には追試も行われており、効果の大きさについては研究間でばらつきがあることも報告されています(Wiradhany & Nieuwenstein, 2017)。「マルチタスカーは能力が低い」と断定するのは行き過ぎですが、少なくとも「ながら」が注意力を鍛えるという証拠は見当たらない、とは言えそうです。
語学は「注意」を食う学習である
ながら学習が特に語学と相性が悪いのには、理由があります。
新しい単語の音と意味を結びつける、構文を解析する、音声から意味を組み立てる——これらはすべて、限りある注意資源を大量に使う処理です。注意が通知やタイムラインに分割されれば、記憶への刻み込みはその分浅くなります。「1時間勉強したのに何も残っていない」の正体は、能力不足ではなく、注意の配分ミスであることが少なくありません。
例外はあります。すでに何度も聞いた音声を家事をしながら流すような「復習の多聴」は、ながらでも機能する場面です。線引きの目安は、新しいものを学ぶときはシングルタスク、慣れたものに再び触れるときはながらでも可、です。
「ながら」を断つ小さな環境設計
意志力で通知に勝とうとするのは、分の悪い勝負です。環境で解決しましょう。
1. 学習中はスマホを別の部屋に: 視界にあるだけで注意を引きます。物理的距離が最強のブロッカーです。
2. 「25分だけ」の集中枠を作る: 短い集中と休憩を繰り返す形式は、ながらの誘惑を「あと数分我慢」に変えてくれます。
3. 学習アプリを使うなら通知を切る: 単語アプリを開いたついでにSNSへ——を防ぐには、学習用の時間だけ機内モードにするのが手軽です。
4. ご褒美としてのスマホは学習後に: 順番を入れ替えるだけで、スマホは妨害者から報酬に変わります。
30分の「純度」を上げる
学習時間を増やすのが難しいなら、せめて今ある時間の純度を上げる——これが、忙しい学習者にとって最も現実的な改善です。通知の消えた静かな30分は、ながらの2時間に匹敵するかもしれません。
今日の学習、始める前にひとつだけ。スマホを、手の届かない場所へ。
参考文献
- •Ophir, E., Nass, C., & Wagner, A. D. (2009). Cognitive control in media multitaskers. Proceedings of the National Academy of Sciences, 106(37), 15583–15587. https://doi.org/10.1073/pnas.0903620106
- •Wiradhany, W., & Nieuwenstein, M. R. (2017). Cognitive control in media multitaskers: Two replication studies and a meta-analysis. Attention, Perception, & Psychophysics, 79, 2620–2641. https://link.springer.com/article/10.3758/s13414-017-1408-4