自分の語彙数、測ったことありますか——Vocabulary Size Testという「体重計」
体重は測るのに、語彙数は測らない。英語学習では、そんな不思議なことが普通に起きています。
「語彙力が大事」と誰もが言うのに、自分が何語知っているかを数字で知っている学習者は、ごくわずか。「測れないものは、管理できない」——この原則は、語彙にも当てはまります。
研究者が作った「語彙の体重計」
語彙サイズの測定には、研究者が開発した標準的なテストがあります。代表格が、NationとBeglarが公開したVocabulary Size Test(VST)です(Nation & Beglar, 2007)。
VSTは、頻度順に並べた語彙リストから単語をサンプリングし、多肢選択問題で「書かれた単語の意味がわかるか(受容語彙)」を測ります。結果は「およそ○○語族を知っている」という推定値として出ます。テスト用紙や仕様はNationの所属大学のサイトで公開されており、オンラインで受けられる版も存在します。
数字がわかると、地図が使えるようになる
語彙数を測る最大の価値は、語彙研究の知見が「自分ごと」に変わることです。研究では、たとえば次のような目安が推定されています(Nation, 2006)。
- •話し言葉の理解(98%カバー): 6,000〜7,000語族
- •小説や新聞の読解(98%カバー): 8,000〜9,000語族
自分の語彙数がわからなければ、これらはただの統計です。でも「自分はいま約4,000語族」と知っていれば、話は変わります。「日常会話の理解まであと2,000〜3,000語族」「ペーパーバックはまだ早い、Graded Readersが適正」——現在地と目的地の距離が、具体的な数字で見えるのです。
これは学習のモチベーション管理にも効きます。英語力の成長は日々の実感としては見えにくいものですが、語彙数は半年〜1年単位で測り直せば、確実に増えているのがわかる指標です。
測るときの注意書き
1. 測定値は「推定」: VSTが測るのは受容語彙(見てわかる語彙)です。聞いてわかる語彙、使える語彙は、これより少ないのが普通です。数字は幅を持って受け取りましょう。
2. 頻繁に測りすぎない: 語彙は日単位では増えません。測定は半年〜1年に1回、定点観測として。
3. 測ったら「次の帯域」を狙う: 自分が約4,000語族なら、次に投資効率が高いのは5,000〜6,000語族帯の単語です。頻度ベースの単語帳や、レベル付きの多読素材を選ぶ根拠になります。
現在地を知る勇気
語彙数を測るのは、少し怖いことでもあります。思ったより少ない数字が出るかもしれません。でも、体重計に乗らなくても体重は存在するように、測らなくても語彙数は存在します。知らないままでは、計画も立てられません。
一度、測ってみませんか。その数字は、あなたを評価するためではなく、あなたの次の一手を照らすためにあります。
参考文献
- •Nation, I. S. P., & Beglar, D. (2007). A vocabulary size test. The Language Teacher, 31(7), 9–13.(テスト仕様・入手先: https://www.wgtn.ac.nz/lals/resources/paul-nations-resources/vocabulary-tests/the-vocabulary-size-test)
- •Nation, I. S. P. (2006). How large a vocabulary is needed for reading and listening? The Canadian Modern Language Review, 63(1), 59–82. https://doi.org/10.3138/cmlr.63.1.59