OMNITELLER記事一覧
記事一覧に戻る更新日: 2026/7/25
コラム

TOEIC Part 7を「時間内に読み切る」ための多読——読解速度という見落とされがちな実力

TOEIC L&Rのリーディングセクションで、最後まで解き切れずに残りをまとめてマークする——いわゆる「塗り絵」。多くの受験者が経験するこの悩みの正体は、単語力や文法力の不足だけではありません。

見落とされがちな要因が、読解速度(リーディングスピード)です。今回は、多読がこの読解速度をどう鍛え、TOEICのスコアにどうつながるのかを整理します。


「時間が足りない」の正体

TOEIC公式サイト(IIBC)によれば、リーディングセクションは75分で100問。うちPart 7の読解問題だけで54問(1つの文書29問+複数の文書25問)を占めます。単純計算で1問あたり45秒。文書を読む時間まで含めると、のんびり読んでいる余裕はどこにもありません。

一方で、日本人学習者の読解速度は決して速くありません。日本の大学生を対象にしたBeglar, Hunt & Kite(2012)の研究では、測定開始時の読解速度は1分あたりおおむね100語前後と報告されています。この数字が意味することは明快です。知識としては解ける問題でも、読む速度が足りなければ、そもそも設問にたどり着けないのです。

「時間があれば解けたのに」という感覚に心当たりがあるなら、足りないのは知識ではなく処理速度かもしれません。そして処理速度は、問題演習だけではなかなか伸びない能力です。


読解速度を落としている「返り読み」

読解速度を落とす大きな要因が、返り読みです。英文を一度最後まで見てから、日本語の語順に組み替えて理解し直す読み方で、後ろから前へ視線が何度も戻るため、読む速度に上限がかかります。

これに対して、英文を語順のまま、頭から理解していく読み方は「直読直解」と呼ばれます。返り読みをせず、英語を英語の順序で処理できるようになると、読解速度は大きく変わります。

問題は、直読直解が「知識」ではなく「習慣」だということです。読み方のクセは、解き方のテクニックを学んだだけでは変わりません。大量の英文を、止まらずに読む経験によってしか置き換わらないのです。


多読が読解速度を引き上げる仕組み

ここで多読の出番です。先ほどのBeglar, Hunt & Kite(2012)では、1年間「楽しみのための読書」に取り組んだグループは精読中心のグループよりも読解速度の伸びが大きく、しかもたくさん読んだグループほど速度の伸びも大きかったと報告されています。また、Nakanishi(2015)が34の研究を統合したメタ分析でも、多読は読解力の向上に対して中程度の効果(グループ間比較で d = 0.46、事前事後比較で d = 0.71)を持つことが示されています。

多読が速度を引き上げる理屈は、次のように説明できます。

  • 簡単な英文を大量に読むため、返り読みの必要がなく、頭から読む処理が習慣化される
  • 同じ語彙・文型に何度も出会うため、単語の認識が速く自動的になり、読みながら考え込む時間が減る
  • 物語の先が気になるため、自然と「止まらずに読み進める」推進力が働く

つまり多読は、Part 7対策のドリルとは別の角度から、「読む」という動作そのものを高速化するトレーニングなのです。


TOEIC学習に多読を組み込む実践のヒント

1. 教材はやさしめを選ぶ——未知語だらけの文章では速度は上がりません。すらすら読めるレベル(目安:1ページの未知語1〜2語以下)が速度トレーニングには最適です。

2. ときどきWPMを測る——語数の分かる文章を時間を計って読み、「語数÷分」を記録します。100→120→140と数字が動くと、成長が目に見えて楽しくなります。

3. 問題演習と役割分担する——設問の解き方はPart 7の演習で、読む速度の底上げは多読で。両輪で進めると、演習の効果も上がりやすくなります。

4. 試験前も読むのをやめない——読解速度は習慣の産物です。毎日の10〜15分が、本番の75分を支えます。


速く読める人は、余裕を持って解ける人

読解速度が上がって得られる最大の恩恵は、実は速さそのものではなく余裕です。読むことに認知資源を奪われなくなったぶん、設問の分析や言い換えの発見に頭を使えるようになります。

「時間との戦い」だったPart 7が、「読めば解ける」パートに変わっていく——多読は、その変化を静かに、しかし確実に後押しします。今日の1冊が、次の受験での「最後まで解き切れた」につながります。


参考文献

投稿日: 2026/7/4更新日: 2026/7/25