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記事一覧に戻る更新日: 2026/7/25
コラム

多読はなぜ挫折するのか——「続く仕組み」を先に設計する

「多読がいいと聞いて洋書を買ったのに、数ページで止まってしまった」。本棚の奥で眠っている一冊に、心当たりはありませんか。

でも安心してください。多読の中断は意志の弱さの問題ではなく、多くの場合「設計」の問題です。続かない原因はある程度パターン化されており、先に対策しておけば回避できます。今回は、多読を習慣として定着させるための考え方を、研究の知見とあわせて整理します。


挫折の最大要因は「難しすぎる本」

多読が続かない理由として最も多いのが、自分のレベルに対して難しすぎる本を選んでしまうことです。

Hu & Nation(2000)の研究では、文章中に登場する単語の約98%を知っている状態であれば、多くの学習者が補助なしで内容を適切に理解できたと報告されています。逆に言えば、100語のうち未知語が5語も10語もある文章は、「読書」ではなく「解読」。それでは楽しむどころではありません。

ここで発想を変えてみましょう。簡単すぎるくらいの本から始めるのが、実は正解です。「この程度のレベルでは学習にならないのでは」と感じるかもしれませんが、多読の目的は難しい文と格闘することではなく、大量の英文をストレスなく処理する経験を積むこと。すらすら読める本こそが、多読では最も価値のある教材です。


「楽しさ」は飾りではなく学習条件

第二言語習得研究者のスティーブン・クラッシェン(Stephen Krashen)氏は、不安や退屈といったネガティブな感情が言語のインプットを妨げるという「情意フィルター仮説」を提唱しています(著書 *Principles and Practice in Second Language Acquisition* は公式サイトで無料公開されています)。この考え方に立てば、「楽しく読めること」は多読のおまけではなく、学習効果を左右する条件そのものです。

また、多読研究者のDay氏とBamford氏がまとめた「多読指導の10原則」(2002)でも、学習者が自分で読む本を選ぶことが原則の一つに挙げられています。日本の高校生を対象にしたTakase(2007)の調査でも、英語で読むことへの内発的な動機づけ——つまり「読みたいから読む」気持ち——が、多読への取り組みを左右する主要な要因の一つだったと報告されています。

つまらないと感じた本は、途中でやめて構いません。むしろ「合わない本はさっさと手放し、次の本へ移る」のは、多読を楽しむための立派な戦略です。読みかけの本を放棄することに、罪悪感はいりません。


記録が「見えない成長」を見えるようにする

多読のもう一つの挫折要因は、成長が実感しにくいことです。単語テストのような点数が出ないため、「本当に力がついているのか」と不安になり、やめてしまうケースがあります。

これに対する有効な対策が、記録をつけることです。

  • 累積語数:読んだ本の総語数を足していく。10万語、30万語と積み上がる数字は、それ自体が達成の証明になります。
  • 読書速度(WPM):1分あたりに読めた語数をときどき測ってみる。日本の大学生を対象にしたBeglar, Hunt & Kite(2012)の研究では、楽しみのための読書(pleasure reading)に1年間取り組んだグループが、精読中心のグループよりも読解速度を大きく伸ばしたと報告されています。
  • 読了リスト:読み終えた本のタイトルを並べるだけでも、「これだけ読んできた」という事実が目に見える形で残ります。

成長は毎日は感じられなくても、数字は嘘をつきません。3か月前の記録と見比べたとき、きっと小さな驚きがあるはずです。


今日からできる3ステップ

1. 「簡単すぎる」と感じるレベルの本を1冊選ぶ——迷ったら、1ページに未知語が1〜2語以下のものを。

2. 1日10分だけ読む時間を決める——通勤中、寝る前など、既にある習慣にくっつけると続きやすくなります。

3. 読んだ語数をメモする——アプリでもノートでも構いません。数字の積み上げが次の10分を後押しします。

多読は、正しく設計すれば「頑張って続ける」ものではなく、「気づいたら続いている」ものに変わります。まずは今夜、簡単な1冊を10分だけ。その10分が、数十万語への第一歩です。


参考文献

投稿日: 2026/7/4更新日: 2026/7/25