発音練習は後回しでいいのか——86の研究をまとめた答えは「効くから早めに」
「発音は通じればいい。それより単語と文法」——日本の英語学習で、発音はいつも後回しの席に座らされてきました。
でも、その席順、根拠はあるのでしょうか。発音指導の効果を大規模に検証した研究を見てみましょう。
発音指導の効果は「大きい」と報告されている
Lee、Jang、Plonskyの3人は、発音指導の効果を検証した86の研究報告を統合するメタ分析を行いました。結果は明快で、発音指導には全体として大きな効果(効果量 d = 0.89 および 0.80)が報告されています(Lee, Jang & Plonsky, 2015)。
さらに、どんな指導がより効果的かも分析されており、フィードバックがある指導、そしてより長期間の指導で効果が大きい傾向が示されています。つまり「発音は才能。練習しても変わらない」という俗説は、データと合いません。発音は、練習すれば伸びる技能です。
発音練習は「話すため」だけのものではない
発音を後回しにしたくなる理由はわかります。「当面、英語を話す予定がないから」。でも、発音練習のリターンは、スピーキングだけに入金されるのではありません。
リスニングへの効果が見逃せないのです。自分の中の「この単語はこう聞こえるはず」という音のモデルが実際の音とズレていると、知っている単語すら聞き取れません。発音練習は、この内部モデルを実際の音に近づける作業でもあります。単語を正しい音で覚え直すことは、リスニングの語彙辞書を修理することと同じです。
TOEICにスピーキングテストがないからといって発音を捨てている人は、実はリスニングセクションでその代金を払っている可能性があります。
独学でもできる「フィードバックつき」練習
メタ分析の知見——「フィードバックあり・長期間」が効く——を、独学に落とし込むとこうなります。
1. お手本と自分の音を比べる: 短い文を音声のあとについて発音し、自分の声を録音してお手本と聞き比べます。録音は、独学における最も手軽なフィードバック装置です。
2. 狙いを絞る: 「全部きれいに」ではなく、日本語話者が苦手としやすい音(例:LとR、th、語尾の子音)や、単語の強勢の位置など、テーマを一つ決めて練習します。
3. 毎日5分を長く続ける: 一夜漬けの発音矯正は存在しません。「長期間の指導で効果が大きい」という知見のとおり、少量の練習を数か月単位で続けるのが王道です。
4. シャドーイングと組み合わせる: 音の練習は、意味を伴った文の中で行うほうが実用に転移しやすくなります。
目標は「ネイティブ発音」ではない
発音練習と聞くと、「ネイティブのような発音」を目指す苦行を想像するかもしれません。でも、研究や指導の世界で重視されているのは、完璧な模倣ではなく明瞭さ(相手に伝わること)です。
日本語なまりが残っていても、単語の強勢の位置が正しく、重要な音の区別ができていれば、コミュニケーションは十分成立します。むしろ、個々の音の完璧さより「単語のどこを強く読むか」「文のどこで区切るか」のほうが、伝わりやすさへの影響が大きいと言われます。ゴールを「伝わる発音」に置き直すと、発音練習は減点法の矯正から、加点法のスキルアップに変わります。
後回しの席から、日課の席へ
発音練習は、「いつか話す日のための投資」ではなく、「今日のリスニングを楽にする整備」です。しかも研究は、練習すれば伸びると太鼓判を押しています。
1日5分、録音ボタンを押すところから。あなたの英語の「音」は、思っているよりずっと、変えられます。
参考文献
- •Lee, J., Jang, J., & Plonsky, L. (2015). The effectiveness of second language pronunciation instruction: A meta-analysis. Applied Linguistics, 36(3), 345–366. https://doi.org/10.1093/applin/amu040