「続けられた」という事実が自信になる——自己効力感と英語学習
英語学習が人生にもたらすものは、英語力だけではありません。もうひとつ、目に見えにくいけれど強力な資産があります。「自分は決めたことを続けられる」という自信です。
心理学では、この種の自信を裏付ける理論が半世紀近く研究されてきました。今回は、学習の継続そのものが持つ価値の話です。
自己効力感——「できそうだ」という感覚の科学
心理学者アルバート・バンデューラは、1977年の論文で自己効力感(self-efficacy)という概念を提唱しました。自己効力感とは、「自分はこの行動をやり遂げられそうだ」という見通しの感覚のこと。バンデューラの理論では、この感覚が行動を始めるか、どれだけ努力するか、障害にあってもどれだけ粘るかを左右するとされます。
重要なのは、自己効力感の最も強力な源泉が達成経験(mastery experiences)——つまり「実際にやり遂げた経験」だとされている点です。気合いや自己暗示ではなく、「やった」という事実こそが、「またできる」という感覚を作るのです。
英語学習は「達成経験の製造装置」にできる
ここで英語学習、特に多読の設計を思い出してください。
- •読んだ語数は数字として積み上がる(1万語、10万語……)
- •やさしい本を選べば、「読み切った」という完了体験が何度でも得られる
- •記録をつければ、過去の自分との差分がいつでも確認できる
これはまさに、小さな達成経験を量産する仕組みです。習慣研究(Lally et al., 2010)が示すように、行動は同じ状況で繰り返すことで自動化されていきます。そして自動化までの日々、毎日の「今日も読んだ」という小さな事実が、達成経験として静かに貯まっていくのです。
やがて手元に残るのは、英語力と、読了リストと、そして「数か月にわたって自分との約束を守り続けた」という反証不可能な実績です。
この自信は「移植」できる
達成経験に根ざした自信の面白いところは、その分野の外へ波及しうることです。「毎日15分の読書を続けられた」という事実は、次に何か新しいこと——資格の勉強、運動の習慣、新しいスキル——を始めるときに、「あのとき続けられたのだから」という足場になります。
TOEICのスコアアップも同じ構造を持っています。スコアという数字は、英語力の証明であると同時に、目標を設定し、計画し、実行し切った経験の証明でもあります。目標設定研究の古典であるLocke & Latham(2002)でも、明確で挑戦的な目標が高いパフォーマンスにつながることが、35年分の研究の蓄積として整理されています。
今日の10分は、二つの口座に貯金される
英語学習の時間は、実は二つの口座に同時に振り込まれています。ひとつは「英語力」の口座。もうひとつは「自分はやれる」という感覚の口座です。
前者の残高はテストで測れます。後者の残高は、人生の次の挑戦のときに引き出されます。どちらも、今日の10分から積み立てが始まります。
参考文献
- •Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215. https://psycnet.apa.org/doi/10.1037/0033-295X.84.2.191
- •Lally, P., et al. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998–1009. https://doi.org/10.1002/ejsp.674
- •Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist, 57(9), 705–717. https://psycnet.apa.org/doi/10.1037/0003-066X.57.9.705