「〜すれば英語が伸びる」を疑う技術——学習法のエビデンスの読み方・入門
「この勉強法で3か月でペラペラ」「科学的に証明された学習法」——英語学習の情報は、強い言葉であふれています。全部を疑えばキリがなく、全部を信じれば振り回される。
必要なのは、疑うでも信じるでもなく、読み方です。研究に基づく主張を見かけたときのチェックポイントを、実例つきで紹介します。
チェック1:出典はたどれるか
まず最初の関門はシンプルです。「研究によると」の研究に、たどれる出典があるか。著者名・発表年・掲載誌が示されていれば、検索して確認できます。示されていなければ、その「研究」は存在しないのと同じ扱いでかまいません。
(ちなみに本記事を含むこのサイトのコラムが末尾に参考文献を並べているのは、読者がたどれるようにするためです。)
チェック2:一つの研究か、研究の束か
一つの実験がうまくいったことと、その方法が一般に有効なことの間には、距離があります。参加者数十人の一回の実験は、偶然や特定の条件に左右されるからです。
そこで重宝するのがメタ分析——同じテーマの多数の研究を統合して、全体の傾向を推定する手法です。たとえば多読の効果については、34の研究・43の効果量を統合したメタ分析があり、多読が読解などに正の効果を持つことが報告されています(Nakanishi, 2015)。一つの成功譚より、束ねられた証拠。主張の後ろにメタ分析があるかどうかは、信頼度の大きな目安になります。
チェック3:「効果量」の感覚を持つ
研究の世界では、効果の大きさを d や g といった「効果量」で表します。ざっくりした目安として、0.2前後は小さい、0.5前後は中程度、0.8以上は大きい効果と呼ばれることが多い数字です。
この物差しがあると、情報の解像度が変わります。たとえば、学習テクニックの有効性を検証したレビューでは、テクニックによって評価が大きく分かれることが示されていますし(Dunlosky et al., 2013)、「効果あり」と一口に言っても、d = 0.3 と d = 0.9 では意味がまるで違います。「効くの?」ではなく「どのくらい効くの?」と問う癖が、誇大広告への免疫になります。
チェック4:断定は、むしろ怪しい
研究の言葉は本来、慎重です。「〜と報告されている」「〜の傾向がある」「この条件では」。追試で結果が揺れることも珍しくありません。だから、「絶対」「誰でも」「必ず」が並ぶ主張ほど、科学から遠いと考えてよいでしょう。誠実な情報発信は、限界や条件も一緒に伝えているものです。
疑う技術は、続ける技術でもある
エビデンスの読み方を身につける最大のリターンは、実は情報の取捨選択ではありません。流行の学習法に振り回されて、勉強法を転々とするのをやめられることです。
証拠の厚い基本——大量のインプット、思い出す練習、間隔を空けた復習、続けられる楽しさ——を軸に据えて、あとは自分に合う形に調整していく。派手さはありませんが、これが「科学的に学ぶ」ことの実際の姿です。
次に「革命的学習法」の広告を見かけたら、今日の4つのチェックを思い出してください。あなたの学習時間は、検証済みの方法に投資するには十分に貴重です。
参考文献
- •Nakanishi, T. (2015). A meta-analysis of extensive reading research. TESOL Quarterly, 49(1), 6–37. https://doi.org/10.1002/tesq.157
- •Dunlosky, J., Rawson, K. A., Marsh, E. J., Nathan, M. J., & Willingham, D. T. (2013). Improving students' learning with effective learning techniques: Promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4–58. https://doi.org/10.1177/1529100612453266